50歳を超えても「もの忘れしない人」がなぜか絶対にやらない「意外なこと」 脳内科医が教える
資格取得のため、昇進試験のため、スキルアップのためなど、今、何かを“学び直す”大人が増えている。 勉強するのは学生の時以来だという人も多いだろう。 そこで陥りやすいのが、「歳のせいで物覚えが悪くなった」「学生時代と比べて記憶力が落ちた」という悩み。
しかし、「記憶力は加齢によって下がることはありません」と、『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』の著者である脳内科医・加藤俊徳氏は、そんな悩みを一蹴する。 その理由は、脳のスペシャリストだからこそ知る“大人脳”の仕組みにあった。
「歳のせい」はもう通用しない 30代後半〜50代になると、物覚えの悪さをつい年齢のせいにしてしまいがちだ。だが、脳科学的には大人脳はむしろ学生の頃の脳より優秀で、頭がよくなるポテンシャルが高いのだ。
そもそも脳が成人するのは、30歳である。 それは、脳の構造上、『大人になった』という状態になるのが30歳頃だからだ。 その頃を境に、脳の機能はどんどん成長し、本来の力を発揮できるようになる。
学生の時よりも断然よく働き、記憶力、判断力、決断力などあらゆる面において、“学生脳”よりも“大人脳”の方がレベルが高くなる。
私はこれまでに1万人以上のMRI脳画像を見てきた、その上で断言できる。 40代後半〜50代こそが脳の最盛期だ。 現に、情報を分析して理解するときに働く「超頭頂野」と呼ばれる部位は、人間だけに備わった脳の高次機能であり、40代に成長のピークを迎える。実行力や判断力を司る「超前頭野」は50代がピークだ。
脳は、新しい刺激をたくさん受けた時に急成長を遂げる。 仕事でもプライベートでも、悩み、思考し、決断を下してきたその経験値が糧となり、脳の高次機能が熟成するのだ。
就職や昇進、結婚などライフステージの変化を経験してきた中年以降の脳は、まさに“旬”と言うことができる。
「学生脳」と「大人脳」の仕組みはまったく違う 「そんなこと言われても実際に覚えられなくなってる!」という人もいるだろう。 しかしその原因は、大人脳に合った勉強法をしていないからだ。
学生脳と大人脳では仕組みが変わったのに、学生時代と同じ勉強法をしていると思ったように成果が出ずにつまずいてしまう。 歳をとって記憶力が落ちたと錯覚してしまう人が多いが、実は記憶力が衰えたからではなく、記憶するための脳のシステムが変わったからなのだ。
大人になってからの脳と学生の時の脳とでは、覚えるための脳の仕組みがそもそも異なる。 聞いたものをそのまま吸収できる“学生脳”は18歳頃から徐々に衰えはじめ、それ以降は10年ほどの時間をかけて、対応力や創造力など、より高度な機能を備えた“大人脳”へとシステムが切り替わっていく。
学生時代を思い返してみると、教科書を読んで暗記する、授業で先生の話を聞いて覚えるなどの勉強の仕方が主体だったという人が多いだろう。 「見たり聞いたりしただけで覚えられたのは、その時の脳の特性上、視覚や聴覚から脳へ情報を送るルートがいちばん強くて使いやすかったから。
しかし年齢を重ねてさまざまな情報に触れたり経験をしたりしていくうちに、他のルートもどんどん開通していく。
大人になるにつれて発達してくるのが、思考力や理解力を伴うルートだ。 つまり、大人になってから何かを覚えたいと思ったら、『見て覚える』『聞いて覚える』よりも、『理解して覚える』ことを意識するのが大切なのだ。
「ふせんを貼る」や「マーカーを引く」は無意味!? 大人が勉強した内容の記憶を定着させるためには『理解して覚える』のが大切だ。 大人の学び直しをしたい時、注意してもらいたいことがある。
学生時代に多くの人がよくやっていた「ふせんを貼る」「マーカーを引く」などの勉強方法は、残念ながら大人にとってあまり意味をなさないということだ。 この勉強法を「今でもやってる……」という人も多いのではないだろうか?
大人の場合、悲しいことに、付箋を貼ったりマーカーを引いたりすることによってえられるのは“やった気分”だけ。 手を動かすことでなんだか勉強した気持ちにはなるが、記憶に定着させることは叶わず、ただただ時間の無駄になってしまう。
付箋やマーカーを使った視覚的なアプローチで成果が出ていた学生の時とは違って、大人の脳はしっかりとそれについて理解をしないと覚えられない。 線を引いたりするだけでは大人脳へのメッセージが弱いので、暗記することに結びつかないのだ。
覚えるためには「頻度」も重要 大人にとって、何かを覚えたいときに注目すべきは脳と情報との「親密度」だ。脳は一見さんお断りという特徴を持っている。
“すでに知っているもの”を好む性質があるため、たとえ普段から多くのことを見たり聞いたりしているつもりでも、実際には自分の関心の高い情報しか入ってきていないのだ。
たとえば、渋谷のスクランブル交差点のような情報量が多い場所では、全ての音や映像を脳がキャッチしているわけではない。 たくさんの音が聞こえる場所だと、それまで音楽が流れていることにさえ気づかなかったのに、好きなアーティストの曲が流れた途端にはっきりと音を認識できた経験があるだろう。
もしくは友人の声や顔なら人混みの中からでも見つけられたことがあるだろう。 このように“すでに知っているもの”を好む脳に覚えてもらうためには、『あ、この情報のこと知ってるかも』と理解させてあげるのが効果的だ。
初めて見たものはなかなか覚えないのが脳の特徴だが、その後も繰り返し会わせてあげることで親密度が上がり、やがて記憶に定着していく。
つまり、覚えるためには脳に情報を会わせる“頻度”が大切ということだ。 もし、資格取得のために週末にまとまった勉強時間を確保しているという人は、脳にとって効果的な勉強法をしていない可能性が高い。
たとえば、あるひとつのことを勉強するのに2時間費やさなければならないとする。 休日であれば、1回で2時間すべてを費やすことも可能だろう。 しかしそれよりも、1回10分を12日間かけて勉強する方が、確実に記憶に定着させることができる。
日を置いて何度も何度も、情報が脳に会いに来ることによって、脳はこの情報が持ち主にとって必要な情報と認識するのだ。 たった1回よりも、12回も会いに来られた方が、脳の印象にも残りやすいというわけだ。
「その日のうちにすぐ復習」も大きな鍵 「情報を脳に会わせる頻度が大切」と前述したが、復習が大切ということはある実験結果からも明らかになっている。 ドイツの心理学者エビングハウスによる「忘却曲線」を知っている人も多いだろう。
この実験は、記憶力に自信がある人と自信がない人に、意味のない単語を10個覚えてもらい、時間の経過とともにどのくらい忘れるかを調べるというもの。 結果は、記憶力に自信がある人もない人も、1時間後には半分忘れており、24時間後には7つ忘れ、48時間後には8つの単語を忘れていたというものだった。
たった1日経たないうちにも、人はどんどん忘れていく。 そんな中で覚えるためには、まずはその日のうちに復習することが大切だ。 意識して何度も同じところを読んだり、時には声に出したりして、脳に顔見知りだとジャッジをしてもらえるようになるのが大切である。
先ほどのエビングハウスの実験では、反復して復習することで記憶が定着していくことも立証されている。 覚えてから1日後は、20%強の記憶しか残っていなかったが、その時に復習することで1週間後には50%にまで、さらに復習することで1カ月後には70%近くにまで回復したという。
毎日忙しい社会人が効率的に情報を頭に入れるには、「1日何時間勉強した」ということよりも、いかに短時間のうちに効率的に覚えられるかが鍵となる。 そのためには、大人脳の性質を理解し、何度も繰り返し復習していくことは成果への近道と言えるだろう。
【抜粋元】 加藤俊徳著『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』より © 現代ビジネス
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